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この日、プリントを学校に忘れなければ、ランドセルを引っ繰り返してプリントがないことを悟った瞬間に宿題も諦めてしまえば、大きな靴音を響かせながら教室へ向かっていれば。 今更ながら私は何度も後悔した。けれどどう足掻(あが)いたところで時間は元に戻らない。私は既に道を踏み外してしまった。 教室の近くまで来たとき、隣のクラスから漏れる話し声に気付く。 内緒話をしているかのように声は小さく、内容までは聞き取れなかったが、時折、噛み殺したような笑いが聞こえた。 野次馬根性ほど強い好奇心は持ち合わせていないけれど、僅かばかりの興味を抱いたのは紛れもない事実で、私は一層靴音に気を遣い、少しだけ開かれた扉からそっと中を覗(のぞ)く。
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