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三十代だろうか、人の良さそうな人相、「どれどれ」とプリントを覗き込み笑った目尻に小さく皺が寄った。 真ん中で分けられた前髪からは清潔そうなシャンプーの香りがふわりと漂う。 黒地に白い線が入っただけのシンプルなデザインのジャージは、きっと彼のトレードマークの役割を果たしているのだろう。 「へぇ。教科書やノートも見ないで解けるんだ。なかなか優秀じゃない」 何と返したらいいのか解らず、私は曖昧に頷いた。 本当にこの人が昨日、私が見た光景の登場人物なのだろうか。それにしては、彼はどこからどう見ても「教師」だ。 初めて話す私に向ける人懐っこい笑みも少しゆっくりとした話し方も、決していけないことをするようには思えない。 「忘れたなら、学校に取りに来ればよかったのに」 見られる恐れがあるのに、こんなことをさらりと言うはずがない。
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