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表面上では嫌そうにしている廉だが、まんざらでもないらしい。
現にこうして、柚子と一緒にトイレに来ているのが何よりの証拠だ。
「つか、千紗も早く行ってこいよ」
「あ、そだった」
と千紗。普通忘れないだろ、と内心思いながらも口には出さない。聞こえてたらそれはそれで面倒だからな。
トイレに入っていったのを確認して、
「そっちも仲、良さそうじゃん?」
と廉が言う。
「知らねえよ。ついてこいってうるさくてさ。断れねえじゃん?」
本当は断ろうと思えば断ることはできる。けれど、隆一に断られるとあり得ないくらいに千紗は落ち込むのだ。数分後には何事もなかったようにいつもの調子に戻るのだが、いつも元気な千紗に落ち込む顔は似合わない。そんな顔は見たくないので、こうして付き合っているわけだ。
「確かに。千紗怒らすと大変だもんな」
「まあな。つか、柚子って怒るのか?」
「怒んねえけど、とりあえず泣くな。それはもう大変だぜ?」
なんとなく分かるわ。そう言った隆一に対し、だろ?と廉。クラスは離れても、こうして普通に会話できる所が何気ないことだけど嬉しかった。
「けど好きなんだろ?」
さあ?と拍子抜けな答えが帰ってくる。けど、と続ける。
「離れたくは、ないかな」
その時の廉の表情はすごく輝いていて。
あぁ、こいつかっこいい、って素直に思った。
「それが好きってことなんでしょーが」
後ろから声。そこには、千紗が立っていた。
「早かったじゃん、千紗。……まあそうなのかもな」
「お前ポニーテール好きだもんな」
「それは関係ねえよ」
と笑い合う2人。
「ところで、柚子は?」
柚子が先で千紗が後に入っていったのにも関わらず、柚子の姿はまだ見えない。
「あぁ柚子なら鏡の前で格闘してたよ」
格闘?と聞き直す、廉。
「何してんの?って声かけたら廉君はポニーテールが好きだから、って。あんまり乱れてないのに必死に整えてたよ」
一瞬、呆気にとられたような顔をした廉だったが、
「面倒くせえなー」
と一言。そして、
そんなことしなくったって俺の気持ちは変わんねっつの
と呟いた声を教室に向かって歩き出していた2人は密かに聞いていた。
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