捜索開始

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翌朝,緋桜は賄いの手伝いをするため台所へ足を踏み入れた。 そこは―――『戦場』だった。 怒号・包丁・野菜・火が、これでもかというくらい暴れ回っている。 予想を遥かに超える忙しさに呆然と立ち尽くしていると、一人の女性が緋桜を見つけ怒鳴り立てる。 「そんな所で馬鹿みたいに突っ立ってんじゃないよ!さっさとこっち来て手伝いな!!」 「う…うむ」 はっとしてすぐに女性の指示に従う。 「まずこの大根全部表の井戸で水洗いしてきな」 と籠に入った大根数十本を指差す。 こんなにもどうやって使うのか理解出来なかったが,緋桜はとりあえず頷く。 「了解じゃ」 言うなり籠をひょいと持ち上げ,すたすたと井戸へ向かった。 一瞬の出来事に、その場の全員の手が止まる。 「ねぇ・・今の子あの量の大根片手で運んでなかった?」 「…あんなに細っこいのに馬鹿力のようね。女の子一人程度は片手で持ち上げちゃいそう」 驚きながらもくすくす笑い,賄い方の女性達は料理を再開した。 別名『戦場』の賄い手伝いと朝食を終え,ようやく原田の率いる10番隊と共に巡回に出る事が出来た。 「なかなかいねぇなぁ。次当たってみるか」 口は悪いが人情深いのか,原田は巡回しながらかなり多くの店に聞き込みをしていた。 その行為にありがたいと感じながらも見つからぬ子を思い,緋桜は思わず俯いていた。 その様を見て罪悪感を感じたのか、原田は先程よりも明るい声で緋桜に話し掛ける。 「大丈夫だって!ガキは京にいるってわかってんだろ?なら絶対会えるに決まってんじゃねえか。な?」 と緋桜の背中をバシバシ叩く。 これによろめきながらも緋桜は笑顔で応じる。 「そう…じゃな。まだ捜し始めたばかりじゃ」 「そうそう,その意気!!・・・所でさ,一個気になってたんだが、質問していいか?」 原田は話にくそうにもごもごしている。 その様子に緋桜は「あぁ」と漏らし,先を続けた。 「私の眼かの?・・・見えてはおらぬ。代わりに私は耳と気配に敏感に出来ておるのじゃ。おかげで何処に誰がいるのかすぐにわかる。・・・あの子の気配なら誰より早く気づく事が出来るの」 「そんなもんなのか?」 欲していた解答を得ていたが、まだ納得出来んといった表情で原田は呟く。 「そんなものじゃよ」 原田の子供っぽい表情に緋桜はくすくす笑っていた。
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