勘違い

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勘違い

近藤の使いが終わり,屯所に戻った斎藤は理解に苦しんでいた。 何故井戸の汲み上げ紐に大根が一本ずつ等間隔に巻き付けられているのか・・・・? 一, 沢庵作り 二, 平助か総司の悪戯 三, 新しい料理法 ・・・・どれもピンとこない。 沢庵などわざわざ井戸に干さない。悪戯にしてもあの二人ならまず大根を食べてしまうだろう。料理・・・は想像もつかない。 「…何なんだ一体?」 ボソリと漏らした独り言を聞き付けたのか,一人の賄い方が声をかけてくる。 「ちょっと隊士さん!えぇ所にいてはるわ!その大根解くの手伝って下さいな!」 斎藤は数瞬迷ったが,この屯所内に下男はおらず,男が全て隊士であることを思い出し頷いた。 賄い方によると,昨日から此処に身を寄せている男が賄いの手伝いを申し出たとか。 ならばと力仕事を任せてみると、何を考えたのか大根を全て井戸に括りつけて洗ってしまったらしい。 賄い方はぷりぷり怒り、教育してやると息を巻きながら台所へと消えて行った。 呆気に取られながらも大根を解き終えた斎藤は,とりあえず帰宅を近藤に知らせに向かった。 近藤の部屋には土方もおり,何やら話し込んでいたが襖越しに声をかけると入室を許された。 仕事の報告を終えると,土方が昨日からの客人について話した。 「あぁ、大根の・・・」 思わず呟き、土方と近藤が不思議そうな顔をする。 先程の事を説明しようかと考えたが止めた。正直どう説明すればいいのかわからない。 とりあえず「何でもありません」と言葉を濁した。 「まぁそういう訳で巡回の時についでに人捜しもしてやってくれ」 「わかりました。人相書き等はありますか?なるべく情報を頂きたいのですが?」 これに土方と近藤は渋面になる。 訳がわからず斎藤は返答を待つ。 「人相書きは無ぇ。わかってんのは天真爛漫で笑顔が愛くるしいガキらしい」 「・・・・・他には無いですか?」 何とか冷静さを保ちながら斎藤は質問を重ねる。人捜しにこんなに主観のみの情報を提供してくる客人の気が知れなかった。 うっすら殺意すら沸いて来る程だ。 二人共に渋面を続けていると、横手から助け舟が出た。 「ありますよ,情報」 笑顔の総司が襖から顔を出していた。
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