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どのくらい時間が経っただろうか?
時間感覚などとうに麻痺した状態で、斎藤は呆然としていた。
緋桜の温もりさえ消えてしまった両手を見つめたまま、動くことも出来ずにいた。
斎藤の叫び声に驚き、会津藩士達が入れ替わり声をかけてくるが、斎藤の耳には届かない。
今はそっとしてやろう。
大切な誰かを無くした経験者など、この場には山程いる。だから斎藤の気持ちがわかり、皆その場を離れてくれていた。
皆の気遣いで、斎藤は別れの儀式の様な静寂を一人過ごす。
何も見えず、聞こえず、感じない。
心の中が空っぽになったような空虚感に支配され、一切の反応を忘れた斎藤の意識を引き戻したのは以外な人物だった。
「あらまぁ、あんさんあの時のちびっこか?大きなったなぁ!」
戦場に不似合いな、いっそ異常とも言える明るい声。妙に耳障りな京弁を話す男が、斎藤を覗き込んでいた。
まるで友人にでも話しかけるかの様な気安さで、笑顔を見せる男に斎藤は記憶を揺さぶられる。
「あんたは……安倍?生きていたのか!?」
「久しぶりやなぁ、覚えてくれてて嬉しい限りや!」
ニコニコ笑いながら、周囲を見渡す。
「んで、わての緋桜ちゃん何処や?そろそろえぇ塩梅やと思ってわざわざ迎え来たんやけど…さっきから見当たらへん。…教えよし?」
相変わらず、蛇の様な底光りする鋭い視線で斎藤を見据えた。
だが斎藤にとって、威嚇の様な鋭い視線よりも、耳に引っ掛かる言葉があった。
「塩梅?」
「…聞きたい?」
「聞かせて貰おうか…」
嫌な、予感がした。
この男と話していると、何となく不快感に見舞われ、嫌な動悸がする。
それでも、聞かなければならない気がした。
この男は、何か知っている。
根拠の無い確信があり、斎藤は安倍に詰め寄った。
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