決意は固く、嘆きは深く。

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安倍は、いかに自分が巧く立ち回れているかを自慢する様に、やや興奮しながら今までの戦果を斎藤に伝えた。 緋桜の目を手に入れてから力が増し、今や大概の妖怪は自分のさじ加減一つでどうにでも出来る。 しかし全てではない。 だから更なる力を得るため、力が弱まっている緋桜を狙っていた。 あの日、弱まっているはずの緋桜の雷は凄まじく、逃げ切る事すら出来なかった。かろうじて生きていられたのは奇蹟に近い。 弱まったとはいえ、それでも最高位の妖怪の力は計り知れない。 …だから策を練った。 以前から他者を介して遅効性の毒を盛り、今回は特性の毒を新政府軍に渡して更なる力の減弱を狙った。 普通の妖怪なら、とっくに消滅している。 だが、相手は烏天狗。 頃合いを見て、狩りに来たのだ。 なのに、見当たらない。 そう拗ねた様に話す安部に、斎藤はただ「そうか」と呟き、抜刀した。 ガギンッ!! 刀身がぶつかり合う金属音に、斎藤は軽く目を見開く。 この優男に、まさか自分の一刀が受けられるとは思わなかった。 キンッ…カキィイン。 「?」 数度、刀をぶつかり合わせて違和感に首を傾げる。 (なんだ?…何かおかしい…) 奇妙な違和感に、冷静さを取り戻す。 「いやぁ、流石新撰組の隊長格や!!強ぅおますなぁ!」 余裕をかます安倍の言葉を無視し、違和感を探す。 (…まさか?) 直ぐに、気づく。違和感の正体。 安倍は刀を持つ握りが逆だった。更によくよく観察すれば、踏み込みや刀の振り方。 全てが型外れ。まさに自己流だ。 (こいつ…素人か!?) 斎藤の考え通り、安倍は刀を振るうのはこれが初めてだった。 しかしそれでも、安倍は剣の腕なら達人の域に達する斎藤の太刀を軽々と受けた。 普通ならあり得ない事だが、安倍は普通の状態ではない。 緋桜の目を手に入れてから、安倍自身の身体能力は飛躍していた。 そのため、素人でありながらも斎藤の太刀を受ける事が可能だった。 だが事情を知らない斎藤は、ただひたすら衝撃を受ける。 自分の剣が、素人に受けられた!? 信じがたい事実に衝撃を受け、心が揺らぐ。揺らいだ心は隙を生む。 …悪循環にはまった斎藤は、安部に追い詰められていた。
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