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エピローグ
慶応4年 9月 22日
会津藩降伏。
しかしその後も斎藤は刀を降ろそうとはせず徹底交戦。
これ以上の被害を憂いた松平容保は、斎藤に使者を送った。面識があると名乗り出た会津藩旧大目付高木の娘、時尾を。
松平と時尾の説得で、ようやく斎藤は刀を降ろした。
我が身は会津藩にあり。
斎藤は己の信条の下、会津に付き従い下北半島へと共に送られ、飢餓地獄を味わう。
その傍らで、常に斎藤を支え続けた時尾と松平の仲立ちで結ばれる事となる。
その後、斎藤は3人の子を設け、東京の空の下で静かに生きた。
大正4年 9月 28日
斎藤は床の中で自らの最期を悟っていた。
だから自分の隣に光が舞い降りてきた時も特には驚かず「お迎えか…」と、死を受容していた。
光が次第に弱まり、中から現れた顔を見るまでは。
「お初に御目に掛かります」
「…ヒィ!?」
そこにあるのは、緋桜と良く似た顔だった。
「…そんなに、似てますか?」
自らの顔を撫でながら、聞いてくる。
「ヒィ…ではないな。お前は…?」
よくよく見れば、その者は緋桜とは違った。
さらさらした髪、やや低い声。…何より男だ。
斎藤に尋ねられ、男…というより青年は居を正して答えた。
「母は緋桜、父は斎藤ー…貴方の息子『奏』と申します」
「!?」
奏の告白に、斎藤は驚いた。
「俺の…息子だと?あいつはそんな事一言も…」
「誓約が有りまして…。私達妖怪は、特に烏天狗は人との交流を嫌います。私を里に預け入れる事を条件に、出産の援助を受けたのです」
「…知らなかった。知っていたなら、何をおいても会いに行ったものを…」
「本当は…出来る事ならお会いしたかった。しかし、母は私を腹に宿している間に毒物を投与されたらしくて…、その影響は私にも受けました」
「毒物…安倍か。…影響とは何だ?」
「身体が少し弱いようでして、山の清浄な空気でしか生きれないのです。だから…下山出来なかった。今までの親不孝…お許し下さい」
奏は、静かに頭を下げた。
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