拾い者

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暗闇といっても過言でない空間で,先程連行された人物は静かに座していた。 そこに人がいるとあらかじめ知っている者でないと思わず見過ごしてしまいそうな程その人物は存在感を周囲に溶け込ませ,ただ刻が過ぎるのに身を任せていた。 ガチャン ずず…ずずず ざっ…ざっ…ざっ。 何かを引きずる音に続けて数名の足音。 近づいてくる気配にその人物はただ悲しげに微笑んだ。 (この者達も…違う…) 土方は少々困っていた。 自分達は京の治安を守るためにある。だから治安を乱す輩は取り締まる,それは解る。 しかし眼前の人物は不審者丸出しなものの,どうにも危険を犯してまで行為に及ぶようには感じ取れない。むしろ世間など眼中に無い様に見える。 「…おい」 ぶっきらぼうに呼び掛けると、その人物はふわりと微笑み、 「やっとお出ましか。若いのに腰が重いようじゃの。ほっほっほっ」 「………」 土方は眉間のシワを深く刻んだ。 話を聴いて風変わりな拾い者をしたとは思っていたが、此処まで頭のネジが緩んでいるとは思っていなかった。 一気に脱力感に見舞われたが、何とか持ち直して続ける。 「あー…お前に幾つか質問がある。事と次第によっちゃあ此処から出してやっても良い」 土方に同行してきた新八達はこれに息を呑むが、土方は片手を上げて抗議を止める。 「ふむ。私に答えられる分にはお応えしようかの」 (…総司の言った通りの惚けっぷりだな) 土方は表情を引き締め審議を開始する。 「先ず名前は?何処から来て京で何しようとした?」 「名は緋桜(ひおう),鞍馬山から参った。京へは人捜しじゃ。最近上洛した…と聞いてな」 「…へぇ」 当たり障りの無い滑らかな返答に、土方の眼が急速に冷たさを増す。 返事につまらん奴に実力者が多い、と考える土方は先程の新八の言葉を思い出す。 ―――『間者』――― 土方の中で警報が静かに鳴りはじめた。 (姿勢・身のこなし・肝の座り具合。どれを取っても優秀な間者と言って過言じゃねぇな。この手の野郎は口が堅い…先ずは泳がせるか?) 相手の返答一つで一瞬で判断,対応策を考え口を開く。 「そりゃあ難儀だな。しかしあんたも京の人間ならわかんだろ?此処の人の多さはよ。この京でたった一人の人間見付けんのは厳しいぜ?」 同情心を装い相手の出方を待った。
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