783人が本棚に入れています
本棚に追加
「うむ。私もそぅ簡単に見付かるとは思わなんだ。・・・・しかし此処まで人が多いとも思わなんでな」
実際、緋桜は途方に暮れていた。居場所が解っているのだからすぐに会えると思っていたが、まさかこんなにも人が密集して住んでいようとは。
そんな緋桜の表情を観察しながら土方は何でも無いことの様に言う。
「此処は京の治安を守るための組織だ。力になれるかもしれん。どんな奴を探してんだか言ってみな?」
土方は緋桜を安心させるよう眉間の皺を解き、ニコリと微笑んだ。
もちろん緋桜を安心させるために微笑んだ訳ではない。土方の得意技の一つでよく女を口説く際に使う表情だ。
なまじ顔が整い、普段仏頂面な分、その表情が緩むと相手は警戒心が緩み無防備になることを知っていたから。
・・・盲目に効果は望めないが。
しかし緋桜は途方に暮れていた分この申し出に飛びついた。
「一緒に捜してくれると?ありがたい!捜し人というのは山口という童なのじゃ!」
「餓鬼…か、わかった。隊士達の巡回中に一緒に捜すよう言っといてやるよ。で,あんたは今何処に住んでんだ?」
「流石に毎日鞍馬から下山するのも難儀じゃから、今は八坂神社裏の山におる」
「「「山ぁ!?」」」
3人の声が重なり、互いに視線を交わし合う。
このご時世いつ何が起こるかわからない。京の町人でさえ夜は引き戸を閉めて出歩いたりはしない。
それを野宿・・・。
これは間者どころか正真正銘の大ウツケ者かもしれない。
更なる脱力感に見舞われたが、土方は被りを振って考え直した。
(まだコイツが白とは言い切れねぇ。即断は禁物だ…)
「あー……流石に野宿はヤバいだろ?金がねぇならガキが見付かるまでうちに居るといい」
「それは助かるが・・良いのか?・・その・・私は大して何も出来んのじゃ。無駄飯喰らいになってしまう・・」
申し訳なさそうに言う緋桜に土方は「かまわねぇよ」とだけ返した。
最初のコメントを投稿しよう!