決意は固く、嘆きは深く。

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「冥土によろしゅうね!」 剣技は滅茶苦茶ながら、人とは思えない腕力、速度に狼狽えた斎藤に、右手をかざす。 安部の手のひらには、見たことの無い奇妙な柄の彫り物が描かれていた。 斎藤の目の錯覚かもしれない。…その絵がうっすら光を帯びた様に見えた。 淡い光を見た瞬間、背筋に嫌なものが走る。 だが、つばぜり合いで安倍の刀を押し返す事が出来ず、避けられない。 (やば…!?) ドンッ! 衝撃に身体が跳んだ。 安倍の手は自分に触れていない。 それでも宙を舞う程の衝撃を身体に受け、胸が熱い。 呼吸が圧迫される。 「がぁっ!?うぎゃああああぁぁぁ!?」 突如、耳に悲鳴が飛び込んできた。 息苦しさを堪えながら目を開ける。と、そこには右肩から先が消失し、もがき苦しむ安倍がいた。 「っ!?」 何が起きたのかは解らない。 しかしこの機を逃す手はなく、斎藤は一気に間合いを詰めた。 痛みと驚愕で錯乱状態の安倍は、瞬き一つした後に不思議な光景を目にする。 目の前に、よく見慣れた服が、身体がある。 血塗れで、何かを探すような仕草のまま立ちすくんでいる。 (何故?) 現状を理解出来ていないまま、頭部だけになった安倍は、静かにその活動を停止した。 「っ……はっ…死んだ…か?」 荒い呼吸で空気を貪りながら呟く。と、ズキン!と胸に鋭い痛みが走る。 「っく!?」 (肋骨数本やられたな…) 思いながら歯を食いしばり、痛みを堪えようと胸に手をやり気づく。 熱いのは、自分の胸ではなかった。 スベスベした感触の勾玉が、蒼白く発光し熱を帯びていた。 安倍の放った攻撃は人外の力、緋桜から奪った力だった。そのため、妖力に反応した勾玉は、鏡のように力を跳ね返した。 安倍は自ら放った力で傷ついたのだ。 斎藤の手のひらの上で、勾玉は一つ大きく光り、元に戻る。 役目を終えた勾玉を見つめ、斎藤は胸に温かいものが込み上げた。 「ヒィ……共に戦ってくれたのか?」 もう、尽きてしまったと思っていた涙が、一筋頬を伝った。 冷たいだけに感じていた勾玉は、再び斎藤の心を暖める役目を得ていた。
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