プロローグ

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現在9回の裏。3‐3で同点だ。1アウトから相木がヒットで出て,バッターは岩田。 「ここでサヨナラしてほしいね」 奈央子が言う。外野スタンドからは大きな声援が聞こえてくる。 キンッ 岩田の打った打球が1塁線を抜けていった。 「行っけー相木!」 奈央子が叫ぶ。僕も立ち上がって,打球の行方を見る。 相木は3塁を回った。打球はやっと内野に帰ってくる。 相木がホームイン。サヨナラ勝ちだ。 「やった!」 奈央子が僕に飛び付いてきた。 女子に抱きつかれるなんて(まあ男子もだけど)初めての経験。しかもかなり強く抱き締めてきた。僕は固まってしまった。 「あれっ?大丈夫,和也?」 奈央子がやっと気付く。 「なんとか」 まあ実際は大丈夫じゃなかった。だが運がいいことに,周りの観客は皆,グラウンドに夢中だったから見られてなかった。もしこの大観衆に見られていたら,2度と街を歩けなくなっていたかもしれない。 「ヒーローインタビューを始めます」 グラウンドではアナウンサーがマイクを持って立っていた。お立ち台には岩田がいる。 ヒーローインタビューも見終え,僕達は球場を出た。
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