1184人が本棚に入れています
本棚に追加
現在9回の裏。3‐3で同点だ。1アウトから相木がヒットで出て,バッターは岩田。
「ここでサヨナラしてほしいね」
奈央子が言う。外野スタンドからは大きな声援が聞こえてくる。
キンッ
岩田の打った打球が1塁線を抜けていった。
「行っけー相木!」
奈央子が叫ぶ。僕も立ち上がって,打球の行方を見る。
相木は3塁を回った。打球はやっと内野に帰ってくる。
相木がホームイン。サヨナラ勝ちだ。
「やった!」
奈央子が僕に飛び付いてきた。
女子に抱きつかれるなんて(まあ男子もだけど)初めての経験。しかもかなり強く抱き締めてきた。僕は固まってしまった。
「あれっ?大丈夫,和也?」
奈央子がやっと気付く。
「なんとか」
まあ実際は大丈夫じゃなかった。だが運がいいことに,周りの観客は皆,グラウンドに夢中だったから見られてなかった。もしこの大観衆に見られていたら,2度と街を歩けなくなっていたかもしれない。
「ヒーローインタビューを始めます」
グラウンドではアナウンサーがマイクを持って立っていた。お立ち台には岩田がいる。
ヒーローインタビューも見終え,僕達は球場を出た。
最初のコメントを投稿しよう!