1184人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
翌日。僕は会長とのデートの為に家を出た。さすがに親にデートとは言えないので,友達と野球観戦とだけ言っておいた。別に嘘を着いている訳じゃないんだから問題ない。
「しかし早く出すぎたかな」
腕時計を見ると,まだ10時半だ。家から球場前の駅まで30分もかからない。
駅で電車に乗り,目的の駅まで向かう。まあ会長を待つしかないか。どこかで時間を潰す気にもならない。
だが,僕は待つ必要など無かった。既に会長は駅に着いていた。私服姿の会長を見るのは,初めてだった。普段,制服姿の会長は大人びていて美しい感じだったが,私服姿の会長はどちらかと言うと可愛らしい感じだ。
「会長,お待たせしてすいません」
会長が僕の声に気付いて顔を上げる。
「こらっ!デートなんだから会長はやめてよ。奈央子って呼んで!」
僕は唖然とするしか無かった。会長の口から発せられた言葉は,普段よりもかなり可愛い声だったのだ。いつもの会長の,少し威厳のある感じでは全くなかった。
「すみません,か…いや,奈央子」
「分かればよろしい♪」
う~ん,会長ってこんなに可愛かったっけ。何か別人のようだ。作っているのか,それともこっちが本当の会長なのか。
どっちなんだ?
「さ,行こ?」
会長が僕の手を握ってくる。
まさか突然そんなことをしてくるとは思わなかったので,僕はびっくりした。
「な,何を食べに行きます?」
「えっとね,私,ラーメンが食べたい」
「はあ」
いつもとは全く違う会長に,僕はそんな力の無い声しか出せなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!