プロローグ

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翌日。僕は会長とのデートの為に家を出た。さすがに親にデートとは言えないので,友達と野球観戦とだけ言っておいた。別に嘘を着いている訳じゃないんだから問題ない。 「しかし早く出すぎたかな」 腕時計を見ると,まだ10時半だ。家から球場前の駅まで30分もかからない。 駅で電車に乗り,目的の駅まで向かう。まあ会長を待つしかないか。どこかで時間を潰す気にもならない。 だが,僕は待つ必要など無かった。既に会長は駅に着いていた。私服姿の会長を見るのは,初めてだった。普段,制服姿の会長は大人びていて美しい感じだったが,私服姿の会長はどちらかと言うと可愛らしい感じだ。 「会長,お待たせしてすいません」 会長が僕の声に気付いて顔を上げる。 「こらっ!デートなんだから会長はやめてよ。奈央子って呼んで!」 僕は唖然とするしか無かった。会長の口から発せられた言葉は,普段よりもかなり可愛い声だったのだ。いつもの会長の,少し威厳のある感じでは全くなかった。 「すみません,か…いや,奈央子」 「分かればよろしい♪」 う~ん,会長ってこんなに可愛かったっけ。何か別人のようだ。作っているのか,それともこっちが本当の会長なのか。 どっちなんだ? 「さ,行こ?」 会長が僕の手を握ってくる。 まさか突然そんなことをしてくるとは思わなかったので,僕はびっくりした。 「な,何を食べに行きます?」 「えっとね,私,ラーメンが食べたい」 「はあ」 いつもとは全く違う会長に,僕はそんな力の無い声しか出せなくなっていた。
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