プロローグ

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「このお店にしませんか?」 球場の近くでラーメン屋を見つけた。まだ少し早い時間なので,そこまで人はいない。 「あ,いいね。そうしよ」 奈央子は笑って言った。 そして僕の手を引っ張って入っていく。 「いらっしゃい!」 店員の威勢のいい声が聞こえる。 「自由に座ってください!」 奈央子は座敷に座った。 「ほら,和也」 前の席を指差して言う。普段は名字で呼ばれるので,名前で呼ばれるとドキッとする。 「ご注文は?」 「私は醤油を」 「僕はとんこつで」 「了解しました!少々お待ちください!」 ずっと大声出してるけど,この人は声が枯れないのか。まあそんなことはどうでもいい。 「奈央子,1つ聞きたいことがあるんですが」 「今は会長と副会長の関係じゃないから,敬語もやめてくれる?」 「え?ああ,分かった」 普段はタメ口だからな。こっちの方が喋りやすくはある。でも奈央子に話すのは,少し違和感があるな。 「で?聞きたいことって?」 「何でいつもと話し方とか全然違うんだ?」 一瞬,きょとんとしたが,すぐに笑顔になった。 「そりゃあ生徒会長としての私と,1人の女子としての私は違うから」 「じゃあ,生徒会の時以外はそんな感じ?」 「うんうん。一応,学校内ではずっとあんな感じだよ」 「じゃあどっちが本当の奈央子なんだ?」 「それはこっちだよ。まあ家族と和也と一部の友達にしか,こういう風に接しないけど」 まるで奈央子はいつもと別人だ。絶対,誰もが驚く。 「質問はそれだけ?」 「今のところは」 「そう」 笑っている奈央子は,何だかとても可愛く見える。普段は,全くそんな風に見えないのに。
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