修学旅行という名の想い出作り

13/30
前へ
/172ページ
次へ
「いいか~,集合時間には,ちゃんと帰ってくるんだぞ」 田中先生がそう言って,僕達は解散することになった。 「さあ~,行きましょう!たくさんの鹿が待っていますよ♪」 結衣はそう叫ぶと,充と川口さんの手を取ってさっさと行ってしまった。 「やる気満々だな」 「ですね。初日から飛ばして大丈夫でしょうかね」 「俺達も行きましょ」 宮川のセリフで,僕や他の生徒会メンバーもバスを出た。 「私は大仏殿へ行きたいんですけど」 井原さんが言う。 「僕は行く気無いんだけどなあ」 「私も別に見なくてもいいが」 「じゃあ俺と井原さんの2人で行くよ」 井原さんが若干困ったような顔を見せる。まさか2人になるとは思わなかったんだろう。井原さんなら拒否しかねない。 「そうすればいいんじゃないか。充と川口さんが誘拐されてる時点で,もう班とか関係なくなってるしな」 「そうするのがいいだろう。私は鳴海と適当にぶらついている」 奈央子も僕に乗ってきた。 井原さんは少し考えたようだったが,奈央子なら安全だと考えたのか, 「分かりました。そうしましょうか。後で合流しましょう」 と言った。 「うん,じゃあまた後で」 「ありがとな,鳴海」 宮川が耳元で囁いてきた。 「別にお礼言われるほどじゃないさ」 宮川は井原さんと一緒に行動したい。僕と奈央子はお互いに一緒にいたい。利害の一致だ。井原さんには害だけかもしれないが。 「じゃあ行こうか,井原さん」 宮川は井原さんにそう言って,連れていった。 しばらく僕は2人を見送っていたが,2人が見えなくなってから, 「僕達も行くか」 と奈央子に言った。 奈央子は周囲を少し見渡して,誰もいないのを確認してから笑顔で言った。 「うん,行こっか。久々のデートだね」 まあ周りに誰がいるか分からないから手は繋げないし,周囲に気を使わなきゃいけないけどな。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1184人が本棚に入れています
本棚に追加