修学旅行という名の想い出作り

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しばらくして奈央子から離れた。奈央子は顔を伏せているが,真っ赤なのがここからも見てとれる。もちろん僕の顔も,真っ赤になっている。 「そろそろ人が多いところへ帰るか」 「え…,あ…,うん」 顔を伏せたまま答える。さすがの奈央子も,突然抱きつかれたのには驚いているようだ。 僕が歩き出すと,奈央子も後ろからついてくる。 「奈央子,誰かに見つかる前に顔を戻しときなよ」 「そんなっ!?和也のせいじゃん!」 「それなら抱き締められた時に,落ち着いていられるような抗体を持つんだな」 「そんなの慣れられる訳ないよ!」 完全無欠の生徒会長様も,恋愛に関してはかなりのオクテである。 「まあいい。その顔が直るまで,そこのベンチで休憩するか」 そう言って,近くにあったベンチを指差す。 「うん,そうする」 奈央子も了承して,ベンチに歩き出す。そして座ると,ぐぅと伸びをした。 「はあ~~。よし,直った」 「早っ!?」 深呼吸1回で,確かに顔は元に戻っていた。 「私は演技は得意だから。いつも作って会長してるし」 「ああ。確かにそうだったな」 そういえば奈央子はいつも人格を変えて会長をしていたな。じゃあ今も無理して顔を戻してるってことか。 「なあ,突然また真っ赤に戻ったりはしないよな」 「多分大丈夫。でも思い出してにやけちゃうことはあるかも」 「絶対にやめてくれよ。そんなことしたら,奈央子の会長としての威厳も危ないからな」 「うん,それは分かってる」 そう言っただけで,奈央子は先にさっさと歩き出した。結局僕はベンチに座ることはなかった。呆然と突っ立っていると,奈央子は振り返って言った。 「おい鳴海,さっさと行かないと集合時間に遅れるぞ」 この様子じゃあ大丈夫のようだな。 だが確かに,結構時間はヤバい。遠くに来すぎた。
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