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「うむ,辺りに寺社は無いようだな」
携帯を見ながら奈央子が言った。
「迷子ってことでしょうか?」
井原さんが聞く。奈央子は少し間を置いてから,
「恐らくは」
と言った。
「次はこっち!」
また川口さんが曲がる。
「着いた~♪」
川口さんが嬉しそうに声を上げる。
「ここは?」
そこは川だった。川岸にはたくさんの植物が生え,透きとおった川の中にも魚がいるようだ。
「川だよ」
それは見れば分かる。
「そうじゃなくて,なんでここを知ってたんだ?」
「京都って,私のおじさんの家があるから。結構来たことがあるの」
「え?絵美ってもしかして京都出身?」
充が驚いたように聞く。
「いや,それは違うよ」
川口さんが笑って否定する。
「しかし,こういう所は自然と落ち着くな」
奈央子が川へ歩き出しながら言う。
「でしょ。私はああいう人工的な物よりかは自然が好きなんだよね」
「あ~,それは俺も同じだわ」
「じゃあしばらくここで休憩するか」
「賛成~♪」
奈央子の提案にあっさり同意した川口さんは,川へ充を連れて走っていってしまった。
「最初からここを知ってたのなら,駅で行くあてが無いとなんで言ったんでしょうか?」
井原さんがふと言った。
「誰かが川より寺社がいいと言えば行けなくなるからな」
「ま,深く考えずに俺らもここでのんびりとしましょう」
宮川がそうつぶやくと,ゆっくり岸へ歩いていった。
宮川の言う通りだな。ここでしばらく休憩といくか。やっぱり大自然の中が一番落ち着くな。本能だろうか。
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