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不規則に動くあなたの手。それにあわせて、服や床に、降ってくるやや色素の薄いわたしの髪。
時折刃先が耳や頬を掠って痛みを感じるけれど、わたしにはそれに文句をつける事すら許されてはいない。
目前の鏡越しに見えるあなたは、心から幸せそうな微笑みを浮かべていて。
機嫌良さげな鼻歌と一緒に、鋭い鋏が小刻みに音を立てる。それはさながら、バックグラウンドミュージックだ。
わたしの呼吸は乱れ、けれどもそれを気取られぬように必死に押し殺して。カタカタと震える手を、爪が食い込む程に強く握った。
ただひたすらに、じっと待つ。あなたの気が済んで、無事にこの行為が終わる事を祈るような気持ちで、ただ待つ。
鏡越しのあなたから目を逸らすことも許されない。少しでも顔を俯かせれば、すぐさま前を向かされる。
「危ないから、動かないで」
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