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狭い玄関に立ち塞がる、妹尾の脇をすり抜けて居間に入ると、いつも通り、ばあちゃんがこたつで細かい刺繍をしていた。
俺を見ると、針を置いて皺くちゃの顔がふうわり笑う。
「お帰り、天志郎」
「ただいま、ばあちゃん」
日課の挨拶を済ませて、鞄を隣の自室に置きにいく。
古い公団住宅は、家賃の安さと間取りの広さだけが魅力だ。
「天志郎~!ご飯はぁ?」
台所から妹尾の声がする。
つか、お前ん家か、ここは。
「賄い、食って来た。
…てか、今日もウチで食ったのか…」
居間に戻り、少しだけこたつで手足を温める。
もはや、どちらがここの家の子供か分かりゃしない。
「え~!今日のシチューは会心の出来だったのにぃ!」
「材料は、蘭ちゃんが買って来てくれたんだよ」
台所から顔を出してぶすくれる妹尾を、援護するばあちゃん。
女二人の協力体制が調っていて、攻撃される俺はため息しかでない。
「…分かった分かった…。明日の朝食うから、そのままにしててくれ…」
ゴロリとこたつに転がる俺の隣で、妹尾を手招きして耳打ちするばあちゃん。
頭の上で密談が交わされている。
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