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セロさんが言葉を詰まらせ、フルーの吹き出す声が聞こえた。でも、その様子は私から見えない。目の前が真っ暗なのだ。
笑いを堪えるフルーの声。声から察するに持ち前の満面の笑顔で肩を震わせているのだろう。笑いの元が自分にあるのはわかっている。さっきから頭に何か当たっている。これが目隠しをしている原因だろう。
「フルーちゃんだったわね。今度からはもう少し店の中の整理は手伝った方がいいと思うわよ」
引きつった笑みを浮かべて目隠しを取った私は絶句した。視界を遮っていた木製の桶には装飾のされた古めかしいフォークやら、錆かけのナイフなどが刺さっている。
桶に刺さるナイフを握り締める私の目つきが変わった事に気がついて、フルーは「すみませんでした」と素直に謝る。
「なんとお詫びをしたものか。申し訳ございませんです。フルー君の話では五線紙をお探しだったとか。お代はいりません。どうぞお持ち帰り下さい。その桶もお付けして……」
「桶は遠慮します」
即答。セロさんは言葉を詰まらせた。
「では、せめて何かもう一つ受け取ってください。おっと、すまないフルー君。電話に出てもらえるかな」
再び店の奥で鳴り出した電話のベルにセロさんが言うと、フルーは私の不機嫌そうな顔をチラリと伺ってから逃げるように骨董の山を歩いていく。
「遠慮しておきます。五線紙が欲しかっただけですし、骨董品には興味無いですし」
「セロー! ティバンニがすぐセロに代わってくれって!」
奥から受話器を振って店長を呼ぶフルー。セロさんは「失礼」と一言断り奥へ向かう。
「フルー君。大家さんを呼び捨てにするものではないです」
嗜める声を聞きながら溜息をついた。
セロさんの気持ちはありがたいが、私はこの店からとっとと脱出したかった。
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