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店の奥へ背を向け、出口のドアに向かって骨董品を掻き分けて前進する。
もう少しでドアノブに手が届くというところで私の袖が引かれた。
「さっきは本当にごめんなさい」
立ち止まって振り返ると、深々と頭を下げるフルーの姿があった。
「アタシ、ここで働き出して間が無くて、初めてのお客さんでちょっと嬉しくて。決して悪気があってアナタをこんな目に遭わせたわけではなくて……その」
早口で一生懸命に話すフルーの様子に私は自然に優しい笑顔を作っていた。
あーあ、可愛い子ってこういう時有利だよなぁ。こういう顔されて許さなかったら、私が悪人みたいじゃないの。
屈んでフルーに目線の高さを合わせる。
「大丈夫、怒ってないわ。確かにいろいろ驚かされた事はあったけど」
「ホントに?」
「ホントのところはちょっと不機嫌」
ちょっとした悪戯心でそう答えると、フルーの顔の悲愴感が一気に増す。彼女のあまりに素直な反応に、私は思わず吹き出していた。
「大丈夫だって。今はもうホントに怒っていないから。ね。」
どれぐらいぶりだろう。こんな優しい話し方ができるとは、自分のことながらすっかり忘れていた。
「許してくれてありがとう。えーっと……」
「トラムよ。トラム・ウェット」
「ありがとう、トラム。ねぇ、ホントに五線紙だけでよかったの? トラムはアタシの一番最初のお客さんだもの、何か他にも欲しい物があったら言ってよ!」
自分が許された事が本当に嬉しいらしく、笑顔で話してくる。
「そうねぇ」
彼女の逆らい難い笑顔に負けて、大して興味の無い骨董品の山を眺めてみる。
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