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頭に描いたルートを全て踏破した私は、終着点ピッコロベーカリーを出ると近くの公園のベンチに座り込んだ。
「まったく、この町のお店は揃いも揃って! 少しはピッコロの親父さんを見習って仕事しなさい!」
愚痴りつつピッコロベーカリーで購入したクロワッサンにかぶりついた。
「他に、五線紙を置いている店かぁ……」
その言葉に、歩き疲れた足が動く事を拒絶する。
頭の中に流れ続けていた曲も何周目かの演奏を迎え、今ではゼンマイの切れかけたオルゴールのように途切れ途切れで弱々しく、雑踏の音達にかき消されそうになっている。
今回は諦めるか……いや、ひょっとすると今流れている曲は後世に残る大作になるかもしれない。私は世界の遺産を消し去ろうというのか! それはダメだ。音楽界の未来のため、なんとしても五線紙を手に入れねば!
無理矢理な理屈を付け、疲れた足を元気付けると再び立ち上がる。
「……あれ?」
立ち上がった私はそのまま止まった。
視線の先にはクロワッサンを買ったパン屋さん。問題はその店の横にある細い路地。
目を凝らして見ると路地の奥に一件の店がある。古めかしい印象を受けるその店が掲げている『音楽堂』と書かれた看板。
なんということだ。灯台下暗し。行きつけのパン屋の近くにこんな店があったなんて!
「あそこだわ!」
私は足の疲れも忘れて音楽堂の看板に向かった。
細い路地を通って店に近付けば近付いていくほど、その古さが目に付いてくる。
だが、外見などどうでもいい。店が開いているなら。五線紙を売ってくれるなら。
音楽堂の目の前までやってきた。休業の張り紙、準備中の札といったものは入り口には見当たらない。そして、私が待ち望んでいたものが扉にかけられている。
「営業中。ヨッシャ!」
小さくガッツポーズを取りながら音楽堂の扉に手をかけた。
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