第一楽章:雑貨狂想曲

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 無関係な人物の過失で、自分まで災難に巻き込まれるといった事はないだろうか……。  私はある。彼女のアレはまさにそうだった。 「ごめんくださ……い?」  扉を開けて中に入った途端、自分の中の期待感が薄れていくのがわかった。  何よ、これ。  音楽堂という店に引き寄せられて入ったものの、中はどうにも音楽らしいものが見当たらないじゃないの。  店内にあるものというと色あせた書籍、高そうな壺、珍妙な置物、使い込まれた鍋、年代物のおもちゃ、年季の入った……。 「……桶?」  骨董品と呼べそうな物から雑貨としか言えないような物が、店内の足元から天井近くまでの棚。棚という棚に置かれている。  いや、置かれているという表現は的確ではない。詰め込まれている。それも、奇跡としか言いようが無いぐらい複雑に詰められている。どれか動かした瞬間、店中の品物が落ちてくるんじゃないの?  棚の間に人一人がやっと通れる程度の通路はあるが、いつ売り物の雪崩に遭遇するかと思うと進む気になれない。  ここは、名前は音楽堂でも骨董屋なのだ。それも、とても身の危険を感じる。 「お邪魔しましたー」  棚に触れないようにそっと振り返る。  ここはダメだ。どこか他を当たろう。  そう思い、外に出るべく再び扉に手をかけようとした瞬間。私の視界は何かによってガバッと占領された。  私の視界を遮ったのは赤茶色の髪を三つ編みにした女の子だった。  来ている服はTシャツとキュロット。首には若草色のチョーカー。パッと見て活発な印象を受けたのは、きっと服装からだけではなく内面から出てくる雰囲気もあるだろう。  相手が誰であろうと、目の前にいきなり出てこられたら驚きもする。だが、私はその驚きに輪をかけて驚いていた。  女の子は私の頭上から現れたのだ。現に今も上下逆さまのまま、天井からぶら下がっている。  私の事をじっと見つめる彼女の明るい茶色の瞳には、驚きのあまり声も出せず動く事も出来ない自分の姿が映っていた。  突如目の前に現れた。それも上から。二段階の驚愕。こういうのも一粒で二度美味しいと言うのだろうか。あ、驚いている割には結構余裕あるな、私。
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