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「店長が率先してやらないでおいて、店員に強制するのはどうかしら」
なるほど、一理ある。
「私が整理した分まで散らかして回るのは、どこのどなたでしょうね」
ダメじゃん、フルー。
「あら。アタシ以外にも店員がいるの?」
ん? フルー嬢じゃないのか?
「この店で働くような物好きは私と君ぐらいなものでしょうに」
やっぱりダメじゃん、フルー。
私を挟みつつ、私をまったく気にも止めていないらしい二人の問答は、店の奥からの電話のベルで中断する。
先ほどの会話から察するにこの店の店長であるセロさんがベルに引き寄せられるように店の奥へと消え、店内には再びこの店たった一人の店員フルー嬢と私だけになった。
「改めていらっしゃい、お客さん。何かお探しですか?」
にこやかに問いかける彼女に私は首を横に振っていた。
「ごめんなさい。店を見違えたみたい。また別の機会に寄らせてもらうわ。その、鍋とか桶とか必要になったら……」
早口でそれだけ言って店を出ようと思ったのだが、この狭い通路では彼女の横を通り過ぎる事も叶わない。
「そうなの? 残念。でも、試しにお探しの物を言ってみて。ここにはいろいろとあるんだから」
確かにこの店は何が置いてあっても不思議ではない雰囲気を持っているわね。
私は店を出るのは一旦諦めて探している物を言う事にした。有れば幸運。無ければ彼女も諦めて、なんとか店から出してもらえるだろう。
「……五線紙を探しているのだけれど」
私の言葉にフルーがニカッと笑う。
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