谷底にて 【水樹】

6/20
前へ
/550ページ
次へ
「……薬、ありがと」 「お、少女よ、なかなかの美声ではないか」 「……」 「……照れるな照れるなー! あたし、江口 春奈(えぐち はるな)ってんだ、よろしくぅ!」 ビッ! っと敬礼をするように自己紹介をしてきた。 「……西塚 水樹」 初対面の人に挨拶ができるようになるとは、私も進歩したのだろうか。 打ち所が良かったのか、私はそんなに時間が経たないうちに起き上がれるようになった。 しかし、起き上がれるだけでまだ立つことはできない。 「して、水樹ちゃんよ。 一体どうしたのさ」 いきなり名前をちゃん付けで呼ぶとは、なかなかの馴れ馴れしさだ。 「……」 「言いたくなかったら言わなくて大丈夫だけどね。 どーせここから出られないんだ、暇つぶしの話ができる相手が出来ただけでも良しとしよう!」 春奈は満足気に鼻息をフン、とならした。
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加