谷底にて 【水樹】

10/20
前へ
/550ページ
次へ
上にいる皆の様子も気になるので今のうちに立ち去りたいところだが……。 立ち上がってみた。 目の前がじわじわと暗くなり、吐き気がしてくる。 傷の部分は、そこに小さな心臓があるかのようにドクン、ドクンと脈打っている。 酷い眩暈に立っていられなくなり、地面に座り込む。 「……まだ、無理か」 本当だったら一分、一秒でも早くここから脱出したい。 早く仲間の元に駆け付けたい。 しかし、私の体は意思と反して休養を求めた。 春奈を完全に信じ切った訳ではない。 だが、満足に動けない今、彼女を信じるしか方法がないだろう。 私はゆっくりと体を地面に倒し、目を閉じる。 睡魔は案外早く襲い掛かってきた。 こんな状況で眠れるなんて、どれだけ図太いんだろう、私。 ……… …… …
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加