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扉を開けた瞬間から、店内の喧騒が雪崩のように私を襲ってきた。
質量さえ感じるそのエネルギーに、私は圧倒された。
「やあ、レイ!よく来たね!こっちこっち!」
明らかに前回とは違うテンションで、マスターが私を呼んだ。
レイ。
そうか。それが、私のここでの名前か。
マスターに促されるまま、カウンターの端から二番目の席に私は座った。
「レイ、ですか」
「ええ。色々考えたんですけどね。お気に召しましたか?」
「もちろん。ありがとうございます、マスター」
私がお礼を言うと、何故かマスターは、やや紅潮した顔を横に振った。
「前に来たときも聞いたはずですよ。私は『マスター』ではなく『ノエル』です」
胸に手を当て、ノエルはそう力説した。
この人、間違いなく飲んでるな。
前回とのギャップに思わず口端が緩んだ。
「ああ。それは失礼しました、ノエル」
私はそう答え、ノエルと目を合わせた。
二回目の顔合わせにもかかわらず、私はノエルに奇妙な愛着に近いものを感じていた。
目の合った二人は、少しの沈黙の後に揃って爆笑した。まだ飲み物を飲む前から、私は上機嫌だった。
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