#01 Take Five

4/10
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
 「いらっしゃいませ」  店内には、マスターと思われる老人がカウンターの中にいるだけだった。見る限り、客は私一人のようだ。  老人、とは言ったが、このマスター、かなりしっかりした感じの人物である。  背筋はピンと伸び、身長もかなり高い。180cmくらいあるだろうか。彼は、見事な長い直毛の銀髪を後ろで束ね、白地のワイシャツのうえに黒いベストを身につけていた。赤のネクタイが映えて見える。  彼は、暇を持て余すように空のグラスを磨いていたが、私が店に入るとそれをテキパキと片付け、コースターと灰皿をサッとカウンターの一角に用意した。 「さ、こちらにお掛け下さい」  手馴れた動きはよどみなく、彼がまだまだ現役であることをなによりも明確に物語っていた。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!