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「いらっしゃいませ」
店内には、マスターと思われる老人がカウンターの中にいるだけだった。見る限り、客は私一人のようだ。
老人、とは言ったが、このマスター、かなりしっかりした感じの人物である。
背筋はピンと伸び、身長もかなり高い。180cmくらいあるだろうか。彼は、見事な長い直毛の銀髪を後ろで束ね、白地のワイシャツのうえに黒いベストを身につけていた。赤のネクタイが映えて見える。
彼は、暇を持て余すように空のグラスを磨いていたが、私が店に入るとそれをテキパキと片付け、コースターと灰皿をサッとカウンターの一角に用意した。
「さ、こちらにお掛け下さい」
手馴れた動きはよどみなく、彼がまだまだ現役であることをなによりも明確に物語っていた。
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