#01 Take Five

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 私は、彼に促されるまま席についた。 「何になさいますか?」  マスターは笑いながらメニューを差し出してきた。素早いその動きに素っ気なさはなく、むしろそのマスターの笑顔に暖かささえ感じた。  当たりだな。  私はひそかにそう思った。  頼んだカクテルは、すぐにコースターの上に乗った。つくづく、ここのマスターは手際がよい。  が、感心ばかりしている場合ではない。何しろ私は、終電に乗らなければならないのだ。  私は、思わずチラリと時間を確認した。  目ざといマスターは、私のその動きを見逃さなかった。 「終電に、お乗りになるのですか?」  マスターに確認され、私は思わず苦く笑った。 「ええ、実は。すいません時間もないのに寄っちゃって」 「いいえ、構いませんよ。ここには場所柄、そういうお客様も多くいらっしゃいますから」  カウンターに両手を置いて、マスターは柔らかく笑った。
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