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私は、彼に促されるまま席についた。
「何になさいますか?」
マスターは笑いながらメニューを差し出してきた。素早いその動きに素っ気なさはなく、むしろそのマスターの笑顔に暖かささえ感じた。
当たりだな。
私はひそかにそう思った。
頼んだカクテルは、すぐにコースターの上に乗った。つくづく、ここのマスターは手際がよい。
が、感心ばかりしている場合ではない。何しろ私は、終電に乗らなければならないのだ。
私は、思わずチラリと時間を確認した。
目ざといマスターは、私のその動きを見逃さなかった。
「終電に、お乗りになるのですか?」
マスターに確認され、私は思わず苦く笑った。
「ええ、実は。すいません時間もないのに寄っちゃって」
「いいえ、構いませんよ。ここには場所柄、そういうお客様も多くいらっしゃいますから」
カウンターに両手を置いて、マスターは柔らかく笑った。
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