14人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
マスターは、再びカウンターに手をついた。
「この曲が、大体5分弱です。これが終わるタイミングでお帰りになれば、終電に乗り遅れることはないですよ」
私は、改めて時計を見た。
おおよそ、終電の10分前だ。
ここから駅までの距離を考えれば、確かに充分な時間である。
なんとも粋な計らいだ。私はマスターにお礼を言おうと口を開いた。
と、その時。
「ありゃ?今日はもうテイク・ファイブがかかってるぞ?」
不意に開いた店のドアから、一目見てサラリーマンと分かる中年男性が入ってきた。
「やあ、いらっしゃいダニエル。いつものかい?」
その中年男性に、マスターが言った。
…ダニエル?
丸顔、丸ハゲ、丸眼鏡。どこからどう見ても純国産のそのオジサンは、ダニエルと呼ばれても全く動じず、逆にマスターにこう返した。
「ああ、ノエル頼む。今日なんか飲まなきゃやってられんよ」
…ノエル?
最初のコメントを投稿しよう!