第一話

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火は確かに教会から上がっていた。 見たこともないような真っ赤な火。 セレナはこれがただの火でないことに気付いた。 ヒトには見えてはいけないもの……。 消防隊が駆け付けて火を消すがなかなか火は消えようとはしない。 セレナは人込みをかき分けて、消防隊の手から逃れるように中に入って行った。 「お父さん!!」 教会の中に入ると父が呪文を唱えながら火の魔物と対峙している。 父がハッとしてこちらを見てきた。 「セレナ!!お前は来てはいけない!!」 父が危ない。 それだけで体が勝手に魔物の傍へ行く。 少しぐらいならセレナも父から教わっている退魔術が使える。 今朝、父から譲り受けた母の形見。 そのペンダントを使って呪文を唱えた。 しかしその呪文は全く魔物には効いて居なかった。 「痛っ、ッ――!?」 魔物がこちらに向かって牙を剥く。 「セレナ!!」 そこに父が飛び込んできた。 セレナを庇って魔物の術を浴びた。 真っ赤な炎が父の体へ吸い込まれていく。 まさか、とセレナは思った。 父は禁忌の呪文を唱えたのだ。 自分の体に魔物を捕える事で自分も死に至る禁忌の術を。 そのお陰で炎は弱まっていった。 だがしかし、父はそれにしたがって息が浅くなっていく。 ひゅーひゅーと浅い息を繰り返しながら父はセレナの体を抱きしめた。 「……セ、レナ……良いですか……。もし、何かあったとしても……  セレナ、お前は生きなければなりません……」 「お父さん!!……お父さん!!」 「セレナ……どうか、強く……」 ズルッ、と体を落とし父は息絶えた。 セレナは信じきれなくてただ泣いた。 消防隊の声が段々こちらに近づいてくる。 セレナと父の体が引き離されてセレナは叫んだ。 「嫌だ……っ!!嫌だ!!一人に、一人にしないで……」 十字架のペンダントを強く握って願った。 そしたら何かが脳裏をよぎった。 ――お前が俺の……。そうか……。力をやろう。 何のことだかセレナにはさっぱり分からなかった。 しかしセレナはその声にコクリと頷いた。 意識が飛んだ。 何かの情景がセレナの脳裏に浮かんで来て、気付いた時は病院に居た。 END
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