夜の雨は冷たい

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足早に帰るサラリーマン達と通りを彩るクリスマスのイルミネーションで賑わう大通りから少し離れた暗く汚い路地裏を男は歩いていた。 「寒い…」 そう呟いてしまう程に今日は寒かった。夜になっても朝から続く雨は結局止まず、結局気温も零度以上に上がることはなかった。傘を持ちあわせなかった男は着込んだロングコートのフードを深く被るしかなった。低すぎる気温は染み込んでくる雨水で体温と体力を容赦なく削ぎとり、そのまま気化し、湯気のように霧散していく。 早く帰ろう。 今回の仕事は疲れた。 「タバコ…」 ポケットから取り出したタバコの蓋を開けると、やはり湿気っていた。使いかけの100円ライターで無理やり火を点けたものの、マズくて吸えたものではなかった。 「チッ…。」 今日はついてないな。 マズくなったタバコと一緒に、残りのタバコもくしゃりと握りつぶし、横に放った。すると雨音に混じって何かが聞こえた。タバコを捨てた音ではなく、何か「重たいもの」が落ちた音だ。 振り返ると、先ほどまで誰もいなかった路地に人がうずくまっていた。まだ若い女だ。頭は割れて血が流れ、脚も折れて骨が飛び出している。 死んでいるのか? 「…ぅ」 微かに呻き声が漏れた。まだ息はあるようだ。しかし長くは保たないだろう。 「お前が悪いんだ!俺はちゃんと言ったのにお前が言うことを聞かなかったからこうなったんだ!だから俺は悪くない…俺は悪くないんだぞ!!」 上に目をやるとビルの最上階の窓から男が喚き散らしていた。どうやら飛び降り自殺ではなさそうだ。 男女のもつれか。 面倒くさい…が 男は倒れている女の元へに近寄り、言った。 「お前の最後の言葉を聞いてやる。」 女はゆっくりと顔を上げて男を捉えた。 「外人、さん?日本語が、お上手ね」 「…。」 驚いた。今この女は微笑んだ。死に逝くことを身体で感じているはずなのに人はこんなにも優しく、美しく笑えるのだろうか。だが、その笑顔から徐々に色がぬ抜け落ちていく。 「それ、じゃあ…この子をお願い。…あの人にはもう…頼めそうにないから」 そう言うと女は転がるようにして仰向けになると女の腕の中から子供が現れた。まだ1才にも満たないような小さな子供だった。
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