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彼が、まさにそのタイミングでドアを開けたのは偶然であった。
偶然?
いや。
もしかすると彼は無意識に、その勘を命一杯働かせたのかもしれない。
分厚い絨毯の上を音もなく歩む、音。
きめ細やかなジーンズが擦れてなる、音。
酸素を吸う、音。
吐く、音。
何時間も前からドアの外に耳の神経という神経を集中させていた彼ならば、それらを敏感に察知することぐらい、たやすいことであったはずだ。
結果、彼の耳は見事当ててみせた。
開いたドアの先、廊下の柔らかい照明に染まる彼女がそこに居た。
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