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 『日本科学技術研究所開発部人工知能研究チーム主任 板倉英子』    なんの飾り気もない名刺には、そう印字されている。英子の生き方同様にシンプルで堅い文字が並ぶ。  名刺は履歴書ではない。  英子には経歴をひけらかして周囲の羨望を集める気も更々ない。    国内の名門大学でロボット工学を学んだ後、渡米。世界的に有名な工科大学へ留学し、英子は持てる時間のすべてをロボット工学の研究に捧げた。周りから見れば、それこそ狂気に支配されているかのように。    英子には恋も遊びも友人も必要なかった。  ただ、自分に知識を与えてくれる者、研究に手を貸してくれる者がいればそれでいい。私的な交流を持つこと自体、英子にとっては不要な労力、時間の浪費でしかなかった。    そうやって若いながらも築き上げたのが現在の地位で、そしてまだまだこれからのしあがっていく人間であろうというのが大方の共通する意見でもあった。
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