第一話 これが苦労の始まりだった

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巧槻は大きく息を吐き、どうやら元凶であるらしい鏡夜に向き直った。 「鏡夜さん…何の用ですか?私は弟達を迎えに行かないといけないのですけれど…」 あの鏡夜に対して不快感を隠そうともせずに言いのけた。 部員達の間の気温が数度下がったが、それは決して杞憂などではなかった。 鏡夜はさして気にした風もなく答えているが、部員達は気が気ではない。 「往生際が悪いな。分かっているだろう?」 「さぁ?何のことでしょうか。私には分かりかねます」 「ならば率直に言おうか」 「いえ、結構です。もう帰りますので」 にっこり笑顔の鏡夜と、僅かに眉間に皺を寄せた不機嫌そうな巧槻。 パッと見、鏡夜のあの笑顔に対抗しているようにもみえる。 しかし、巧槻の頬をうっすらと覆う冷や汗で、どうやらそうでもないらしいことが窺えた。 「何度も言ったが、ホスト部に入れ」 「何度も言いましたが、入りません いい加減あきらめてください」 にっこり笑って言う鏡夜に、肩をびくつかせながらも要求を両断する。 「大体、何故私が要るのですか。部員は充分足りていると思うのですけれど?」 「お客様のニーズに応えるのも仕事の内でね。今のままでは応えきれていない層がある」 「別に私でなくとも良いでしょう。他を当たってください」 「お前じゃなければ応えられないんだよ。だから大人しく入ってくれるな?」 『………』 双方一歩も引かない言葉の応酬に、鏡夜に勝てた例のない部員達は唖然としていた。
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