二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険 第1章

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プロローグ 広い街道を、冬の木枯らしが吹いている。 常緑樹の森に左右を囲まれた街道は、風の通り道。 風に吹かれて寒そうに見える牛や馬に引かせた荷馬車や荷車を導く商人が、街道に長蛇の列を作り。 街道の先に聳える黒き山の様な城塞都市に向けて進んでいた。 この城塞都市に続く街道は、固めた土剥き出しの整備された道が、都市の約一キロ手前からレンガ敷きに変わり。 都市まで伸びる。 上空からもし人がこの街を見下ろしたらなら、夜まで途絶える事の無い人・荷馬車などの列に驚く事だろう。  世界で最も商業の栄える国、マーケットハーナス。 商人達によって治められ、自由で激しい商業の生存競争によって育てられた国は、国土も他の国に比べて狭いながら。 驚くべき利益を上げて今に生き残る。 しかしながら、そんな利益追求の街も、冬のこの季節は一年の商売繁盛に対する感謝祭が開かれて賑やかで穏やかなムードに包まれる。 都市上空に幾千もの花火が上がり、所々でビールやワインが振舞われ。 建物ばかりが犇く市内地では、パレードや都市内のあちらこちらの広場で演じられるオペラ・サーカス・マジックなどを、飲食店から見て楽しむ人々の姿で溢れ返るのだ。 テラス・オープンカフェなどが、大人気に成る。 9日間と云う長丁場のお祭りが、最も隆盛際立つ4日目の夜。 見物客や、酔っ払いが大通りを練り歩く。 人の列のうねりの喧騒が響く裏通り。 黒いマントを羽織って、顔を隠す様にフードを深く被った二つの人影が走っていた。 先を行く、頭半分・・いや、然程背に差の無い二人だが。 気持ち低い背の者が、建物の裏に無造作に積まれたワイン樽の物影に隠れながら。 後ろを着いて来るマントの人物に振り向いた。 「セイル、こっちは広場だよ」 若い。 少女の様な声だ。 声に張りが在り、小声でも少しキーの高いしっかりとした声である。 後ろのマント姿の、“セイル”と呼ばれた人物は、暗がりの中で頷いて。 「だいじょ~ぶ、この先は、サーカスを見る見物客が大勢居るもの。 その後ろを通って、向こうの通りから裏通り行けば、地下水路の入り口に出れるよ~」 こちらも、声が若い。 だが、明らかに男の子と思える声。 穏やかで、ほんわかした声の響きだ。 「OKっ。 一気に外に出るよっ」 と、前を行く元気な少女の声に。 「ほわぁ~い」 と、後から行く若者の緩い声。
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