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「昨日、黒夜真月くんから連絡があってね。覚えてるかな?」
ピクンっ、と肩が動くのがわかった。
そのワードは、今の私にとって……かなり鬼門なのだけれど……。
「覚えてるわよ。唯一の先輩だったんだもの」
「そうだったね。彼から、謠羽くんにお誘いがあったんだ」
「お、お誘い……?」
言葉の意味が解らず、私はおうむ返しに聞き返してしまった。
真山先生は、うん、と頷く。
「ちょうど1週間後、始業式の日に新東京市で大会が開かれるんだ。知っているかな?」
「――……チーム戦がどうのこうのってヤツかしら」
「そう。4人1組でチームを作り、リレーで全長20kmを走るレースだよ」
4人1組のリレーレースか……。うちの部は、私と礼しかいないから関係ない話ね。
「それが、そういう話じゃなくてね。謠羽くんをチームメイトとして迎えたいらしいんだ」
「え……?」
私を、真月先輩のチームメイトに……?
「どういうことよ、それ……」
「言葉通りの意味だよ。今度の世界大会に出場する際のチームメイトとして、謠羽瑠音くん。君を迎えたい、という話だよ」
真月先輩は、世界レベルで活躍している選手。
その真月先輩が、私をチームメイトに呼んでいる……?
「差し当たっては、直接会って話をしたいみたいだけれど……君にとっては、因縁のある相手だろう? だから――――」
「行くわ。場所は?」
私は迷わなかった。
チームメイトとして大会に出るのには抵抗があるけれど、真月先輩とは、会って話がしたい。
先輩が卒業して、2年。
私も先輩も、変わった。
それを、確かめたい。
私は本当に強くなれたのか。
本当に速くなれたのか。
なにより。
真月先輩と話がしたかった。
私の即答ぶりに、真山先生は驚いたように少し目を見開くと、含みのあるように小さくため息をついた。
「今日の15時、駅前にある喫茶店、『あづき』で待っているそうだよ」
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