第1章

10/15
前へ
/133ページ
次へ
「昨日、黒夜真月くんから連絡があってね。覚えてるかな?」 ピクンっ、と肩が動くのがわかった。 そのワードは、今の私にとって……かなり鬼門なのだけれど……。 「覚えてるわよ。唯一の先輩だったんだもの」 「そうだったね。彼から、謠羽くんにお誘いがあったんだ」 「お、お誘い……?」 言葉の意味が解らず、私はおうむ返しに聞き返してしまった。 真山先生は、うん、と頷く。 「ちょうど1週間後、始業式の日に新東京市で大会が開かれるんだ。知っているかな?」 「――……チーム戦がどうのこうのってヤツかしら」 「そう。4人1組でチームを作り、リレーで全長20kmを走るレースだよ」 4人1組のリレーレースか……。うちの部は、私と礼しかいないから関係ない話ね。 「それが、そういう話じゃなくてね。謠羽くんをチームメイトとして迎えたいらしいんだ」 「え……?」 私を、真月先輩のチームメイトに……? 「どういうことよ、それ……」 「言葉通りの意味だよ。今度の世界大会に出場する際のチームメイトとして、謠羽瑠音くん。君を迎えたい、という話だよ」 真月先輩は、世界レベルで活躍している選手。 その真月先輩が、私をチームメイトに呼んでいる……? 「差し当たっては、直接会って話をしたいみたいだけれど……君にとっては、因縁のある相手だろう? だから――――」 「行くわ。場所は?」 私は迷わなかった。 チームメイトとして大会に出るのには抵抗があるけれど、真月先輩とは、会って話がしたい。 先輩が卒業して、2年。 私も先輩も、変わった。 それを、確かめたい。 私は本当に強くなれたのか。 本当に速くなれたのか。 なにより。 真月先輩と話がしたかった。 私の即答ぶりに、真山先生は驚いたように少し目を見開くと、含みのあるように小さくため息をついた。 「今日の15時、駅前にある喫茶店、『あづき』で待っているそうだよ」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加