序章

3/6
前へ
/133ページ
次へ
たった数回、言葉を交わすだけ。 それだけで、私の心は軽くなった。 どこまでも飛んで行けそうなくらい、身も心も、楽になる。 ――……何てことかしらね。 私ったら、もうすっかり、礼がいないと生きていけないみたい。 「別れの挨拶は済んだかな?」 隣の彼が話し掛けて来る。 凄まじい圧を伴っていたはずの言葉はしかし、今では何の障害にも感じなかった。 だって、私には、待っていてくれる人がいる。 それに。 このレースが終わったら、私は伝えるつもり。 大切な人に、ずっと側へいたい、と。 「別れじゃないわ。――……再会の約束よ」 風を感じる。 私を呼ぶように鳴く風を感じ、身を預けんがために右足を前へ。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加