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余程びっくりしたのか、痩身長身の浪人者は目を見開いたまま立ち尽くした。
「おかしな男だ」
そう言い残すと鴉はその場を後にしようとした。その時、
「だ、旦那、お待ち下され!」 ちらりと一蔑くれて鴉はそのまま歩き出した。
「それがし、三浦以兵衛と申す。」鴉の後を付いて行き乍ら、長身に似合わぬぼそぼそとした声で浪人者は話す。 「貴殿の腕に感服し申した。某、幼き時より剣はからきしで仕官先も無く食い詰めた所で図体がデカイから何かしら役に立つだろうと旦那がお斬りになった二人に連れて来られた次第で。」 鴉は無言で歩き続ける。
「あの、その、よろしければ拙者、貴殿に剣を教わりとうございまして。」
「よく喋る男だ。此は厄介な事になった。」鴉は肚の内で呟いた。 鴉は、来るものは拒まぬが、人に何かをしてやる性分では無い。
「好きにしろ。」一言呟くと鴉はようやく着いた貧乏長屋の戸をぴしりと閉めうんざりした顔で床に就いた。
どうやら似兵衛は帰ったようだった。
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