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八月。高校生初の夏休みを迎えるも、俺は特にこれといって青春ぽいことをすることもなく、クーラーとテレビと某定価63円アイス(税込)のお世話になっている内にいつの間にか夏休みは折り返し、出校日という忌々しい恒例行事のため久しぶりに制服の袖に手を通すこととなった。
「ねぇ、笹野は行かんの?今夜の花火大会」
もしこいつに尻尾が付いてたらブンブン振り回しているんだろうなと容易に想像できるほどゴキゲンな様子で、隣の席の橋本は退屈そうな俺に意味の無い質問をしてきた。
俺に訊いたところで一緒に行くなんてことになるわけでもないだろうし、どうせ橋本にとって重要なのは俺が行くかどうかじゃないだろう。
「俺は行く予定ないけど、なんか橋本はやけに楽しそうだな。そんなに楽しみなのか?今日の花火」
「わかる~?今日は一緒に行く面子が楽しみやからね~。今からドッキドキやもん!」
相変わらずテンションの高い女の子だな~と思いつつ、実はそんなテンションが嫌いでもない俺は、頬杖を突いてふと思ったことを口にする。
「もしかして、彼氏と行くの?」
その質問に、橋本は一瞬意外そうな表情をするが、すぐにいつもの無限笑顔に戻る。
「そんなんやないって~。うち彼氏なんておらんもーん」
手をひらひらと振りながら否定する彼女を見ながら、俺は何か不思議な感情が胸の中に渦巻くのを感じていた。
なんだ?
俺は今、何故彼氏のことなんて訊いたんだ?
たとえそうだとしても、俺には関係ないはず……なのに。
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