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そして、昼間にそんな会話があったというのも忘れかけていた夕暮れ時。俺の携帯がメールの着信を伝えた。
そのメールは同じクラスの友人からのもので、内容は花火大会への誘い……もとい呼び出しだった。
なんでも、急遽女の子達と一緒に花火大会に行くことが決まり、その数合わせに俺も選ばれたということらしい。
正直、火薬の玉が破裂するのを見る為だけにこのクソ暑い中人混みに揉まれに行くというのは気が引けたが、それを言ってしまっては花火会場に詰めかける数万人の夢やらロマンやら風流やらを踏みにじることになりかねないので、ここは大人しく付き合いというものに身を委ねることにした。
「了解」とだけ打ってメールを返し、口に咥えていたソーダ味を一気に噛み砕き、簡単に身支度をして待ち合わせの場所へ向かうと、案の定着いたのは集合時間よりも少し早めだった。
当然まだ誰も来てはいない……と思いきや、花火見物に集まった大勢の人混みの中から、俺を呼ぶ声がするのに気が付いた。
「あ、笹野~!なんや、やっぱり来とるや~ん」
そこにいたのは、昼間の制服姿とは違う、見事な浴衣姿の橋本だった。
その浴衣で着飾られた無限笑顔を見た途端、俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。
「え、橋本!?」
完全に予想外だった。
橋本が集合場所にいるということは、メールに書いてあった一緒に行く女の子達というのは橋本達のことだったのか?
橋本とはクラスではちょいちょい話すものの、特に仲が良いというわけではなく、「気軽に話ができるクラスメイト」という認識でしかなかったため、まさか一緒に花火大会に来るだなんて思ってもみなかった。
期待すらしていなかったというのに、これは何だ?
この胸の高鳴りは何なんだ?
何故、橋本を見ただけでここまで心拍数が上がるんだ?
なんでこんなに、橋本と花火を見れることを嬉しいと思っているんだろう。
もしかして俺は、いつの間にか橋本のことを──
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