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関所に勤め既に十年。前線を離れ、こうして国境を越える商人らを相手に静かな日々を送っていたオスロだが、今日ほど気分の悪い任務はなかったと思う。たかが一人を相手にこれほど大規模な兵器を。それも、神族(しんぞく)や魔族を殺すためならまだしも、同じ人族を殺すためにだなどと。
やりきれない思いを胸に、山肌に沿うよう設えた下へと続く階段を降りる。
その一歩を踏み出した時だった。
「ちゅ、中佐ッ!」
後ろから部下の慌てる声――いや、それはもはや、怯える者のそれだった。
不思議に思い足を止める。
「どうした、急に」
その部下には、隊を動かすよう先程命じたはずだった。そのように動いているはずで、現に数瞬前まで、その準備に取り掛かっていたはずだ。しかし、振り返ればその兵士は遠くを指差し顔を強張らせている。まるで、なにかに怯えるようだ。
だが、いまさら何に?
不思議になり、
しかし、
(いや……。そんな、まさかッ)
ありあえない予想がよぎり、しかしその思いに急かされるまま、不安に押し上げられるかのように、すかさずオスロは元に戻った。駆け足に、高台へ。
そして見た。
未だ燃え盛る森を、見た。
その手前――。
クラスターに焼かれなかった森の木々が、不自然に、しかし確かに――倒れている。次々とまるで根元が朽ち倒れるように、ドミノ倒しのように倒壊していくではないか。この関所に向け、確実にこちらに向け、ただ乱雑に森は崩れ、倒れ続けている。崩壊の速度は、見る見る内に増していく。
遠くに見えるそれは、数分でこの場所まで達する勢いがあった。
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