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三メートル近い高さの圧倒的な大きさを誇る巨大な狼。その巨躯は力強く大地を蹴り、目の前の木々を倒し、森を駆け抜けていた。
不思議な事に狼の前に迫る木は、まるで生気を吸い取られたかのようにその身を朽ちさせ、狼の進路を譲るかのよう次々と、意志があるかのごとく自ら倒れ続けているのだ。狼の走りを邪魔しないと配慮するようで、見える木見える木、全てが自壊を繰り返す。
非現実的な現象。
魔術的な事象。
決して、狼が力尽くになぎ倒しているわけではなかった。
そうして何にも遮られることなく森を駆ける狼。
それが不意に、ピクリと鼻を上げた。何者にも遮られることのない駆け抜ける足を止め、落ち着かない様子で空を見上げる。
周りの木々が朽ち倒れ、開けた空。
そこに、黒い点が見えた。
直径二メートルの黒い球体が写す、青の中の黒点だ。
「うわ、わう、また来ましたよッ」
唐突に、狼はそんな声を上げた。
狼が、人語を使い喋った。
見た目は三メートルを超える巨大な狼。人など簡単に引き裂けるだろう爪、牙。形相も相応に、切れ長の輪郭は獰猛さを一目で知らしめる。体の白が、かえって残忍性を強調するようでもあった。
それをもってして、黙っていれば鬼気迫る迫力を持った白い狼だ。
しかしそれが、まるで子犬のように慌てた様子でその場をくるくる回れば、少女のような声をあげたのだ。
変わらず、焦り狼は叫ぶ。
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