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「どうするんです、どうするんですあれッ。黒焦げ絵書肉(かいしょにく)になるなんて私、絶対に嫌ですよッ?」
混乱していた。
くるくる回って目を回して。
完全に。
ただ迫る脅威に反してその声に怯えはなく、言うなればコミカルな口調。目をバツにするような、緊迫感のない声で、狼は叫ぶ。
それに、溜息が答えた。
狼の声とは別の、溜息だ。
慌てふためく狼の声にうんざりしたような溜息だった。やれやれと、言ってもいない声まで聞こえてきそうだ。
同時、もぞりと、影が動く。狼の巨躯の上、背中の上、白銀の毛の中に、気付けば淡い水色が交ざっていた。
ローブだ。
当然それは狼の物ではなく、その背中にもう一人跨る者がいる。澄んだ水色のローブに全身を覆ったその人物は、静かに――、
「ルイン、伏せ」
しかし、反論を許さない重い口調で鋭く指示を飛ばす。
瞬間。狼――ルインはその通り、メリハリのある動きでその巨躯を小さく丸めその場に伏せた。無駄なほど一切無駄のない動き。
その従順さときたら、見た目こそ恐ろしいけれど、もはや大型犬の延長でしかない。威厳もなにもない、唯々諾々。
地上でそうこうする間に、上空で。放たれた黒点――クラスターは再び炸裂し、無数の爆弾を地に降り注がせる。
先のそれを目の当たりにしているからか、思わず目を伏せるルイン。
二度目だというのに。
呆れたようにローブの人物は、しかし何も言わず、ただ、降り注ぐ驚異を目深にかぶったフードの向こうから気だるそうに見上げていた。見上げ、おもむろに手を伸ばす。
瞬間。
それは具現した。
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