126人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんというやつだ、信じられん」
「首尾は?」
「直撃だ。だが、魔術だろう、防がれている。全くの無傷だ」
心配そうに顔を上げた部下に、黙って望遠鏡を渡す。受け取り部下は、
「まさか、クラスターは上級の魔術にすら匹敵する破壊力。現にこれだけの成果を挙げています。それが防がれる、無傷だなんて」
「信じられんが、やつはそういう実力の持ち主なのだろう。だから、本国はこれだけの攻勢を命じた。当然だ。それでもやつは、脅威だとも思っていないのだろうからな」
そうなれば罪人を裁くどころか、捕まえることも、まして殺すことだってできやしない。必ず殺すための手段を用いても、効果がなければしかたがないのだ。
なにより、このままもし、やつを自由にさせてしまえば、
(背負うのは、他国‐我々の手の届かない土地‐ときた)
結果は火を見るより明らかだった。
いや、それを証明する事態が、すでに迫っていたのだ。
「中佐ッ!」
高台の下である。物見のためのそこではなく、もう一つ下。関所の門の上にあたり、石の敷き詰められた屋根の部分だ。
もしもの時、そこは魔術兵及び弓兵の戦場となり、中央にはクラスターの発射台もある。当然、今という事態でそこには五十にも及ぶオフィール軍兵士が待機しており、そこからオスロを呼ぶ声がした。
声は、部隊長のものであった。
.
最初のコメントを投稿しよう!