第一章 罪の名を

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 森を抜け、ゆっくりとこちらに方向を向き直らせたやつは、跨る狼を走らせ、徐々にスピードを上げて迫っている。高台から兵士達の元へ降りて石畳の屋根の上で、走り迫る姿を見て、呟く。 「正面から仕掛けるか。やつめ、身を隠す意味をなくせば、こうも早く行動を変えるか。なんと不敵な」  いや――素直な感想を言うのであればむしろ。それがやつにとって最も簡単な方法だからなのだろうと思う。  クラスターの直撃をも受けられる防御力――魔力の強大さ。電報で見てもわかるとおり、強く本国が警戒するのだ。実力を語るのは今更で。  それはやつの罪状を知るものであれば、容易に想像のつくことだった。  差し迫るのは、確かな脅威。  それでもオスロは命じた。  兵士達は確かに実戦の経験がない。敵の実力は見ての通り。質が一つも二つも上手だ。正直な話、どうにかできる自信なんてなかった。  けれど。  命じる。  強張る一人一人の表情を見て、その緊張を払うような、大声で。 「撃ちかた、構えッ!」  グッと。心を締めるような、弓を絞る音。  煌々と、魔術陣も輝く。  恐らくやつはこの関所をくぐり、他国へ逃亡するつもりだ。そうなれば手出しができない。  本国を恐れさせ。  クラスターをも耐えた化け物。  それが、もし野放しになれば――それを許すわけにはいかない。  今となって、まだやつに対し同情の念を抱く余裕なんて残ってはいない。  今はただ、化け物の進行を食い止めるため。  市民の平和から、脅威を取り除く。  それが、軍人の務めだ。  そうだ。  これが、軍人の務めだ!  オスロは、久しく平穏の中で忘れかけていた軍人としての誇りを、この時思い出していた。 .
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