プロローグ

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 パンノニアの中心には城があった。空を穿つようにそびえる円錐の屋根が並んだ、大きな城だ。  国をまたがるドナウ川は、一度城を囲む堀を通り、市街地を流れ海へ出ることになる。  すなわち城は、円形に並ぶ街の中央であり、横断する川の中心に在るようそこに鎮座していた。小国とはいえ城としての貫録を失わない、立派な物。古き良い、趣のある城だった。  しかし、そんな威厳を損なう出来事が城で起きていた。  今日も起きていた。  兵士は騒然としていた。廊下を見れば、どこも慌ただしく走り回る者ばかり。その手には国内外の地図や角材など、統一性のない、なおかつ兵が持つには相応しくない物が多い。  街はいつもと変わらぬ賑やかさであるのだが、城内もまた――やはり今日もまた、変わらず騒然としていたのだ。 「えぇい、またしても、またしてもッ」    そのただなか。  叫んだのは、兵士ではない。  大臣だ。    ハゲの頭を両手で掻き毟り、ゆでダコのように真っ赤になって、ただ叫ぶ。誰に言うでもなく、憤りを爆発させる。 「だからあれほど、姫を一人にするな、目を離すなと言ったものをっ。それがどぉうしてッ!」  こんなことになったのか。  理由は誰に聞くまでもない。  それは、いつものことだった。 .
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