第一章 罪の名を

3/37
前へ
/451ページ
次へ
「見ればわかる」  告げると同時、熱風が轟音を乗せて体を震わせる。微動だにせず、岩か山のように腕を組んだままのオスロへ、見るのをやめて兵士。 「……しかし、直撃だというのに、あまり浮かないようですが?」  それこそ、見ればわかるだろう。  そう言うようにオスロは、小さく息を吐いた。  部下の言うとおり、攻撃は直撃だ。対軍用に造られた広域殲滅兵器。人族軍オフィールの最新兵器クラスター。その破壊力は見ての通りで、たったの一撃で直径にして一キロ近い範囲が焼き払われたのだ。  しかし、それを受けたのは軍隊ではない。  広域への攻撃を目的として造られているのだから、当然、本来ならば軍団相手――せめて大隊規模を一掃するための兵器である。  しかし。  今回向けられた対象。  一個大隊ではない。  軍でもない。  群ですらない。  ――たったの一人だ。  そう、たった一人を目掛けクラスターは放たれた。  たかが一人のために、対軍用兵器を持ち出したのだ。広域殲滅用のそれを。  牛刀をもって鶏を裂く。  直撃しないはずがない。  その一人を焼き払うためだけに最新兵器を持ち出して、直径一キロにおよぶ広範囲を焼き払い、その結果をもって直撃したと、そう判断する。  そこにオスロの気の浮かない理由があった。  砲撃を指示したのは所長でもあるオスロだが、クラスターの使用はそもそも本国からのものだった。電報を見た時は、それは驚いたものだ。 『先刻、例の罪人がそちらに向け逃亡したとの報告があった。クラスターの使用を命ずる。何としても国外に出すな。その場で仕留めよ』  それは、異例中の異例だった。 .
/451ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加