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たった一人を相手に最新兵器の使用を命じられるだけでもそうだが、ここは片田舎の近く、場違いなまでに平和な、人界の中。そうした攻撃手段を固定、しかも必ず敵を殺すためを目的とした命令など、未だかつてあるはずがなかった。
最新兵器であるクラスター。
これの使用でさえ、その威力から本来の対軍用にも許可が降りない、そういう代物。国内に向けた使用となれば、尚更。
それを本国から命じられた。
そして、本当にたった一人のためだけに使うことになった。
使ってしまったのだ……。
この時オスロは、少なからずその罪人に同情の念を抱いた。遠くから見ても、クラスターにより火の海と化した森は凄惨を極めるありさまだ。
あの場所に居たであろう鳥も、獣も、虫の子一匹残らず死に絶えたであろう。十人からの魔術師を集め、やっと完成させられる大魔術にも匹敵する、その威力。とても人では耐えられまい。
いつまでも浮かない気持ちを、更に深く沈め、オスロは不意に顔を伏せた。
「中佐、ご気分が優れないのですか?」
「なんでもない……」と首を振り「ただちに消火活動にあたれ。このまま森を焼く事もあるまい。それと、隊を編成して死体の確認を。見付かればだが、骨の一つ、埋めてやる必要もあるだろう」
部下にそう命じれば、オスロは静かに高台を降り始めた。部下はただ、釈然としないまでも言われた通りに動きだす。
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