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それなのに、君は僕のことを愛してくれていたはずなのに、どうして君は僕の姿を覚えていないのだろうか。愛してくれた僕の姿を、なぜ、君は覚えていないのだろう?
「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」
ただ、それだけだった。それ以上でも、それ以下でもなく、ただ笑顔を、その瞳を、その言葉を僕に向けてくれた君が継げた言葉は、それだけだった。
ここはとあるイベント場。真っ白な机と言う仕切りを隔てて座っているのは、僕が愛してやまない君。そして、何千と言う人々が周りに居る。だが、君が愛してくれている僕の姿は、これだけたくさんの人が居ても、きっと僕の姿をいち早く見つけてくれるだろうと思っていた。
ここにやってくるまでも、僕はたくさん耐えた。
一人、また一人と、君は見知らぬ男と笑顔をかわし、その純白の手のひらを男の手で汚してゆく。何故、何故そんなことをしているのだと、最初は思った。だが、あぁ、それは仕方ないことなのだと、僕は思った。彼女はアイドルだ。アイドルはこういう仕事をするのだから仕方が無いのだと、僕は懸命に湧き上がる憤怒の衝動を必死に抑えていた。そして、僕と君の距離は着々と近づいていった。
今日この場に僕が姿を現そうと思ったのは、愛しい僕の存在に会えない君が酷く不憫に思えたから。そして、僕の姿を見ることで、君に今回のような握手会と言った僕と愛し合う時間を喪失させるその行為自体に疑問を感じ、今回のような時間の無駄としか形容できない行動を二度と起こしたくない、やりたくないと思わせるためだ。君が愛してやまない僕の姿。きっと君も、僕の姿を見れば、こんなくだらない男たちと手を結ぶことを止め、もっと僕の前に姿を表すような、僕と共にいれるようにするための努力を始めることだろうと思ったからだ。
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